2016年6月6日~9日、「セキュリティ・マネージメント強化研修」を
開催しました
イベントレポート
ジャパン・プラットフォーム(JPF)は、2016年6月6日から9日の4日間に亘って、日本のNGOのセキュリティ体制における課題に取り組むことを目的としたセミナー、ワークショップ、ミーティング等を、米国NGO団体Mercy Corpsとの共催および米国最大のネットワーク組織であるInterActionやUNHCR管轄「eCentre」の協力のもと、開催しました。(※TOMODACHI NGO Leadership Programの一環として実施)。
日本のNGO全体として取り組まなければならない「組織のセキュリティ体制」という課題に対する正面切った議論と策の検討を行うべく、本研修は、各団体のマネージメント層の参加を主眼において企画、開催されました。一方で、実際に現場での危機管理能力が求められる実務者やフィールド・スタッフ等、一般職員に対する各種ノウハウ(リスク・アセスメントやプランニング)のインプット、自らの所属団体やNGO全体に対して彼らが提起するセキュリティに関する意見や提案の吸い上げも肝要であることから、日程前半(6月6日、7日)では、対象者を広く設定し、セッションとグループワークを行いました。後半(8日、9日)は、「NGO安全対策勉強会」(※)メンバーを中心にマネージメント層が集い、詳細な議論や今後についての合意形成を行うミーティングとしました。
本イベントレポートでは、主に1日目と2日目の様子、参加者の声をお伝えします。
※)「NGO安全対策勉強会」
「組織のセキュリティ体制」は、日本のNGOが取り組まなければならない課題であると長く認識されながらも、なかなかNGO全体としての具体的なアクションが取られてこなかった。また、人道支援活動を取り巻く環境がますます困難を極める中で、各NGOのセキュリティ体制を強化し、活動を展開するうえでドナーや支援関係者からNGOの安全対策における信頼や理解を喫緊に得ることが課題である。そういった問題意識から、InterAction Forum Study Tour 2015への参加を端緒に、2015年9月、同会が有志によって立ち上げられた。本研修を通して、また研修終了後の会合を重ねる中で各種合意形成が行われ、同会は2016年8月に「NGO安全管理イニシアティブ」(Japan NGO Initiative for Safety and Security: JaNISS)準備会となり、活動を続けている。
1日目(6月6日)
テーマ:Global Security Management(団体のセキュリティ方針策定ワークショップ)
1日目の目的:
「MOSS(Minimum Operating Security Standards)」とInterActionの「Global Security Policy Framework」の内容、それらが機能するまでに至る背景や軌跡、今日どのように機能しているか等の紹介を通して、日本のNGOがMOSSやSecurity Policy Frameworkを持つ上で必要なことの共通認識や、日本のNGO全体の取り組みとして整備を進めるための勢い付けになることを目指す。
グループワーク:
「セキュリティ・マネージメント」において、日本のNGOが直面しているチャレンジングな点を挙げ、講師からのアドバイスや他グループからの意見をもとに解決方法を探り、発表。(ファシリテーター: 折居 徳正氏)
レクチャー:
- UNのシステム(UN OCHA(UN Office for Coordination of Humanitarian Affairs)やUNDSS(UN Department of Safety and Security)などの国際的人道支援の枠組み
- セキュリティの観点から振り返る「Humanitarian Principles」
(講師:Anne Dorian, UNHCR)
<参加者の声>
- Humanitarian Securityは、human resource management等を含むすべてのマネージメントを網羅していなければならないほどに重要であると認識できた。
レクチャー:
- 「Security Strategies」(Acceptance、Protection、Deterrenceなど)
- 「Security Risk Management Framework」
- セキュリティにおける有用なツール(GPR8、ECHO Handbookなど)
(講師:Chris Gibb, JPF)
<参加者の声>
- GPR8の解説で「Security Managementは、ready-madeのような与えられるものではない、自分たちでプロセスをたどって作り上げるものだ(Security Management is procedural!)」という講師の言葉が印象的だった。
レクチャー&グループワーク:
- InterAction版「MOSS」について。
- InterAction版「MOSS」の一つ一つのStandardについて、日本のNGOが準用できるか、日本のコンテクストに合わせるならばどのようなStandardとすべきかを、グル―プ毎に議論し、発表。
(講師&ファシリテーター:Basile “Laky” Pissalidis, InterAction)
<参加者の声 -1日目全体を通して- >
- 海外のNGO界では安全管理基準が明文化されていたり、各団体のセキュリティポリシーが明確かつ詳細に策定されていることを知り、日本でもそうすべきという認識を改めることができた。
- Security Managementはすべてのプロジェクト一つ一つと、切っても切り離せないイッシューであり、それ無しで人道支援活動を行うことは、裨益者はおろか誰のためにもならないという原点に返ることができた。
- Humanitarian Securityは軍隊や企業のセキュリティとは全く異なるものであることがわかった。
- セキュリティにおいて、現地でUNとNGOがパートナーとして対策を取れるという情報が有益だった。
2日目(6月7日)
テーマ:Field Security Planning(フィールド・セキュリティ計画策定)
2日目の目的:
フィールド・レベルのリスク・アセスメントとプランニング、また日本のNGOにおける安全対策にまつわるグッド・プラクティスの事例が参加者間で共有されることを通して、フィールドでの安全対策に関する経験が少ない/ポリシー等が未整備であるといった団体のキャパビルになることを目指す。
レクチャー:
- InterActionによるフィールドでのSecurity Coordination
- UNによるフィールドでの Security Coordination
- セキュリティにおけるフィールドでのNGOの連携の図り方
(講師:Basile “Laky” Pissalidis/Anne, Dorian, UNHCR/Chris Gibb, JPF)
<参加者の声>
- フィールドで、より精度や質の高いセキュリティにまつわる情報を得るためには、INSOやUN、他のNGO、現地スタッフやカウンターパートとの連携が欠かせないことがわかった。
- フィールドでのセキュリティに関する情報は、UNや政府から一方的にもらおうとするだけでなく、NGO側からも提供するという対等な関係を築くことが肝要である。
- セキュリティにおいて、現地でUNとNGOがパートナーとして対策を取れるという情報は今後役に立つ。
レクチャー&グループワーク:
- 「Risk Assessment Matrix」とマトリックスの使い方
- 南スーダン、トルコ、イラク、アフガニスタンごとのグループに分かれ、Risk Assessment Matrixを作成し、発表。
(講師&ファシリテーター:Chris Gibb, JPF)
<参加者の声>
- 「threats」そのものと「sources of threats」の違い、「security threats」と「safety threats」の違いについて理解できた。
- このMatrixを使って行うRisk Assessmentは、危険度の高い国・地域に関わらず、活動地全般において広く汎用できると思う。
- Matrixは、可視化することで誰にでもわかりやすく、且つ、リスクの査定と予防を同時に行うのに有用。
<参加者の声 -2日目全体を通して- >
- セキュリティについて専門知識を持ち得ていなかったが、今日のセッションのおかげで、意識を払うべきことや実際にフィールドで取るべきリスクの減少方法について自分ができること・すべきことが明らかになって良かった。
- riskとmitigation measureについてロジカルに考える手法を学べたので、これまで経験ベースの感覚値で行ってきた自団体のリスク・アセスメントを改善できそう。
- スタッフ個人のセキュリティ対策だけではなく、組織全体のマネジメントに関わることなので、今日の学びは自団体に持ち帰り、上層にシェアしようと思う。
- リスク減少の方法を考えるにおいて、リソースが限られた中だからこその妥協ポイントを見つけておくことの重要性を学んだ。
3日目(6月8日)
NGO安全対策勉強会ミーティング その①
日本NGO版MOSS策定に向けて、「MOSSの在り方について」「MOSSの中身について」「チェックリスト&ガイドラインについて」の3つのグループに分かれて、それぞれ議論、検討しました。その他、MOSS策定と並行して進めるべきアドボカシー活動についても、全体で戦略や方向性を練りました。(ファシリテーター: 折居 徳正氏)
4日目(6月9日)
NGO安全対策勉強会ミーティング その②
最終日となる4日目には、1~2日目にて挙がった参加者からの質疑や発議、そして3日目に深めた議論を経て、今後、NGO安全対策勉強会メンバーを中心に、アドボカシー、チェックリスト&MOSSの作成、セキュリティ分野に特化したキャパシティ・ビルディング(対NGO、対メディア、対外部支援組織等)、ファンドレイジングのため、各種タスクフォースを同勉強会内に設置して本格的に動き出すことが合意されました。
これだけの動きとなると、同勉強会の運営、ガバナンス、財源についても漏れなく議論が及んで白熱する場面もありました。随所に、この4日間をファシリテートしてきた講師やコンサルタント陣による豊富な経験談やアドバイス、eCentreによるリソースの紹介もあり、アクション・プランの骨子と重点が無事に固められて、最終日は締めくくられました。(ファシリテーター: 折居 徳正氏)
こうして4日間の幕は降りましたがこれは足がかりに過ぎず、現在、同勉強会はガバナンス上、「NGO安全管理イニシアティブ」(Japan NGO Initiative for Safety and Security: JaNISS)準備会へと名称変更し、この4日間で得たことを手がかりに、日本のNGO全体の安全管理対策における課題に取り組み続けています。